今年で3回目を迎えるブラック企業大賞。
2014年7月30日、記者会見を行い、下記の通り今年のノミネート企業をその理由も含めて発表いたしました。
授賞式は9月6日(土)です。
授賞式の前日まで、恒例のウェブ投票も開始いたしますので、ぜひ皆さんも投票ください。
(サイトの左上にある企業名を選んで投票ください。ノミネート理由は下記の通りです。よくお読み右の上投票ください)。
【記者会見の模様】
(報道: OurPlanet TV )
★第3回 ブラック企業大賞 ノミネート企業★
1. 株式会社 大庄(居酒屋チェーン「日本海庄や」)
株式会社 大庄は東証一部上場企業であり、従業員3千人規模、「庄や」「やるき茶屋」「日本海庄や」など全国に約860店舗の居酒屋チェーンを展開している。
「日本海庄や」では、2007年に24歳の若者が過労死している。日本海庄やで働いていた吹上元康さんは2007年4月10日、新入社員として滋賀県大津市の「日本海庄や」石山駅前店の調理場に配属され、わずか4カ月後の8月11日未明、急性心不全により自宅で死亡した。大津労働基準監督署が2008年12月、元康さんの死亡を過労死と認定したことを受け、元康さんの両親は、損害賠償を求めて株式会社大庄と平辰(たいら・たつ)代表取締役ら4人を京都地裁に提訴。2013年5月の判決では、会社と役員4人に対し、約7860万円の支払いを命じた。
大庄は初任給に過労死の労災認定基準(過労死ライン)である月80時間分の残業代を組み込んでおり、裁判では元康さんの死亡前4カ月間の総労働時間は1カ月平均276時間で、時間外労働は平均112時間だったと認定された。
そのような過重労働を前提とする会社の労務管理について、裁判官は「労働者の生命・健康に配慮し、労働時間が長くならないよう適切な措置をとる体制をとっていたものとはいえない」とし、元康さんが過労死したのは取締役らが「悪意又は重大な過失により、そのような体制をとっていた」ことが原因と結論付け、役員個人の賠償責任を認定した。
2. JR西日本(西日本旅客鉄道株式会社)
JR西日本では2012年、28歳の若者(Aさん)が過労自死している。Aさんは大学院修了後の2009年に総合職としてJR西日本に入社、2011年6月から兵庫県尼崎市の工事事務所で信号システムの保安業務などを担当していた。そこでは昼夜連続勤務や休日勤務を繰り返し、同年12月以降は残業時間が毎月100時間を超過するようになった。自死直前の2012年9月には残業時間は月160時間を超え、その他の月でも最長で250時間を上回る残業をしていたという。またAさんの担当していた保安業務は、乗客の安全のためミスが許されない責任の重い仕事であり、ただでさえ過酷な長時間労働をしているAさんを精神的にも肉体的に追い込んでいく要因となった。このような過重労働の中でAさんは鬱病を発症し、2012年10月、マンションの14階から身を投げ自死した。
両親と妻は尼崎労働基準監督署に労災申請し、2013年8月、労災認定された。同年9月、遺族は会社を相手取り、慰謝料や逸失利益など総額1億9144万円の支払いを求め大阪地裁に提訴。原告側は、タイムカードなどで労働時間を適正に把握しなかったなどとして、同社に注意義務違反や雇用契約上の安全配慮義務違反があったと訴えている。
JR西日本側は 第1回口頭弁論で、長時間労働と自殺との因果関係を認める一方、損害額について争う姿勢を示している。
3. 株式会社 ヤマダ電機
株式会社ヤマダ電機は、2005年2月に家電量販店として日本で初めて売上1兆円を達成。2014年3月期には連結売上1兆8939億円、同純利益186億円を計上し、3万2671人(13年3月期時点)の従業員を抱える、日本最大の家電販売業者である。
2007年9月19日午前2時頃、同社の郊外型店舗「テックランド」柏崎店に勤務していた当時23歳の男性社員(Aさん)が、過労の末に社宅で首を吊り自殺した。
2004年12月に契約社員としてヤマダ電機に入社したAさんは、亡くなる1ヶ月前の2007年8月16日に正社員に登用。同時に9月21日に新規開店予定だった「テックランド」柏崎店のオーディオ売り場の「フロア長」になるよう命じられ、23歳で正社員未経験ながらいきなり「管理職」として扱われた。ヤマダ電機では8月16日以降、Aさんに出勤時刻は打刻させていたものの、退勤時刻を打刻させていなかった。
2011年6月、Aさんの自殺は労災認定された。長岡労働基準監督署は、関係者の証言や警備記録などから男性が自殺する直前1ヶ月間で少なくとも106時間21分の残業をしていたと結論。特に亡くなる前の1週間の時間外労働は47時間30分と極度に多いことが認められている。
遺族はヤマダ電機側に安全配慮義務違反があったとして、2013年12月11日に前橋地裁に損害賠償などを求めて提訴しているが、ヤマダ電機側は労基署の認定は事実誤認に基づくとして、訴えを全面的に否定している。
なおヤマダ電機では2004年4月上旬にも、当時29歳の契約社員が上司からの罵倒の末に自殺に追いやられたとして、2005年1月に遺族から損害賠償請求を提訴されている。さらに2013年7月にはテックランド船引店の店長が営業不振に苦しんだあげく、架空売上を計上して自殺に追い込まれたとの報道(「週刊文春」13年12月19日号)もある。
「週刊文春」が入手したヤマダ電機の内部資料によると、2013年9月7日以降の4週間で、残業時間が40時間を超えた従業員は全国607店舗で1819人。さらに46人の店長が、厚生労働省の定めた「過労死ライン」(残業時間が月平均80時間)を超えているという。
4. 株式会社 A-1 Pictures
「A―1 Pictures」は東京都杉並区のアニメーション制作会社であり、ソニー・ミュージックエンタテインメント傘下の映像企画・製作会社アニプレックスの100%子会社として2005年5月に設立された。これまでに『おおきく振りかぶって』『黒執事』『かんなぎ』『宇宙兄弟』『聖☆おにいさん』などの作品を制作している。
2010年10月、当時28歳の男性社員Aさんが都内の自宅アパートで自殺した。各紙報道によれば、Aさんは2006年から2009年12月まで同社の正社員として勤務し、在職中は『おおきく振りかぶって』『かんなぎ』などの制作進行を担当。同社にはタイムカードなどで労働時間を管理する仕組みはなかったが、Aさんが退職後に通院していた医療施設のカルテには、「月600時間労働」などの記載があり、残業時間は多い時で月344時間に上った。7日間連続で会社に泊まったり、3カ月休みがなかったこともあったというが、残業代が支払われた形跡はなかったという。
Aさんの自殺は2014年4月11日に新宿労働基準監督署が労災認定。同署は男性が在職中に鬱病を発症しており、発症の2~4カ月前に少なくとも月100時間を超える残業があったと認定している。
アニメ制作は多くの若者が志す人気職種となっている一方、日本アニメーター・演出協会が2008年に728人を対象に行なった調査では、アニメーターの賃金は年収200万円未満が9割で、労働時間管理がなされず、社会保険も未加入という事例が多数あったとされる。「好きな仕事をしたい」という若者の心理につけ込むことで、劣悪な労働を甘受させる「やりがい搾取」の象徴的事例として、今回ノミネートをした。
5. タマホーム株式会社
東京都港区に本社を置くタマホームは、「ローコスト住宅」を主力商品として扱うハウスメーカーである。設立は1998年と後発ながら、「坪単価25万円」を謳った割安感と、SMAPの木村拓哉など大物タレントを起用する広告戦略で受注を増やし、2013年3月には早くも東証一部上場を果たしている。
一方で「注文住宅着工件数2年連続日本一」との広告が景品表示法の禁じる「優良誤認」に当たるとして2007年3月に公正取引委員会から排除命令を受けるなど、これまでにたびたび不祥事も発覚している。
2011年10月12日、同社の男性社員Aさん(当時47歳)が過労により亡くなり、2012年8月にいわき労働基準監督署が労災と認定した。男性は2007年7月3日にタマホームに入社し、2010年からは、いわき営業所で営業職の主任を担当していた。だが2011年3月の東日本大震災をきっかけにいわき市内の住宅需要が急増してからは各営業マンの負担も増加。後にいわき労働基準監督署がパソコンのログイン記録などを元に認定したところでは、男性が亡くなる前半年間の残業時間は最も短い月で83時間、最長で103時間に及んでいた。
ただし同署の調査復命書は、タマホーム社員たちがあらかじめ許容されている残業時間を超えて働かざるをえない(サービス残業の形跡を消す)ために意図的なログオフ忘れ、あるいは社員間でのIDの貸し借りを行っていた可能性を指摘している。亡くなる半年前の残業時間について、男性の遺族は労基署の認定を上回る144〜186時間であると主張している。
いずれにしても過労死ラインを大幅に上回る残業が続いていたAさんは、2011年8月頃から身体の不調を訴えるようになった。そして10月11日、業務扱いとして参加が義務づけられていたタマホームの支店対抗ソフトボール大会に出場後、同僚と宿泊したホテルで急性心筋梗塞で亡くなっているのが発見された。
遺族は労災認定を受け、2013年9月6日にタマホームを相手取り、約1億400万円の損害賠償などを求め東京地裁に提訴しているが、タマホーム側は原告の求めを全て棄却するよう求めている。
6. 東京都議会
2014年6月18日、東京都議会で、女性の妊娠や出産においての都の支援対策について質問した女性議員に対して、「早く結婚した方がいいんじゃないか」等のヤジが飛んだ。これらのヤジは発言自体が女性蔑視にあたることは言うまでもない。さらに、ヤジを飛ばしたことを認めた男性議員の記者会見では、「・・・少子化、晩婚化の中で早く結婚していただきたいと思い・・・」などと言葉を変えただけで、結婚や出産が個人の自由だという認識をまったく欠く弁明を述べ、問題の本質を理解できていないことが露呈した。
このヤジが飛んだ議会中には、このヤジの他にも女性蔑視にあたると思われるヤジが複数飛んでいる。しかし、前記の都議以外には発言当事者が名乗りでず、音声鑑識などを用いて発言者探す事態にまで発展した。他の発言をした議員たちは、今も口をつぐんだままである。
言うまでもなく、議会は議員にとっての働く場所である。ところが、「慣習」だとも言われる議会中の性差別に特化したヤジは、都議会のみならず多くの議会で発生していることが、この問題が発覚した後に次々明らかになった。
今回発されたヤジは、環境型セクハラに該当するものである。環境型セクハラとは、職場での性的な言動によって、労働者の就業環境が不快なものとなり、仕事をする上で支障が出ることを指す。
今回の事件で、都議会におけるセクハラに対する認識の甘さが白日の下にさらされたが、おざなりの決議だけをあげて幕引きを図ろうとしたが、問題は何ら解決されないまま放置されている。また今回の議会では、ヤジの直後に議長から「不適切発言を制止」するということもなされなかった。
都議と都議会は雇用の関係ではないが、このような内容のヤジがセクシャルハラスメントに該当し、許されない発言であることを雇用の現場でも再確認する意味を込め、こうしたヤジが飛んでも自浄能力を何ら発揮することなく幕引きを図ろうとした都議会を特別にノミネートした。
7. 株式会社リコー
株式会社リコーは、資本金1億円超、連結売上高は2兆2,000億円(2014年3月期)を超え、東証1部に上場する、日本有数の大企業である。同社は2011年5月、「人員リソース改革」と称し、1万5000人の人事異動と1万人の人員削減を行う計画を明らかにし、同年6月には1600人程度の希望退職者募集を行うことも発表した。そして、同年7月には、特定の対象者に対して「希望退職制度」に応募させようと上司による退職勧奨が始まった。
Aさんは、技術畑を歩んで来た労働者でリコー内ではスペシャリスト2級に位置づけられていた。社内での表彰も複数回あり、登録特許も数百件あるほどの専門性を有する労働者であった。
ところが、Aさんは、この人員削減の対象とされ、上司から、複数回にわたり退職勧奨を受けた。上司は、会社に残るのであれば意に沿わない仕事になるだろう、として、生産系の作業的な仕事、物流系の倉庫での仕事などを例示したが、Aさんは希望退職に応じる意思のないことを示した。
同年8月、リコーはAさんを子会社に出向することを命じた。出向先は物流系の子会社であり、Aさんは立ち仕事で単純作業(商品の荷受業務や開梱業務等)に従事した。Aさんには個人机もパソコンも支給されなかった。
Aさんらは東京管理職ユニオンに加入し、団体交渉を行い、その後、Aさんと同様の扱いを受けたBさんとともに出向命令の無効の確認を求めて東京地裁に提訴した。2013年11月12日、判決が下された。判決では、Aさんらへの出向命令は、Aさんらを選定した点において、基準の合理性、過程の透明性、人選作業の慎重さや緻密さに欠けており、また、出向先での業務はAさんらのキャリアや年齢に配慮されておらず身体的・精神的に負担が大きいものとした。そして、本件出向命令はAさんらが自主退職に踏み切ることを期待して行われたものであるとして、人事権の濫用として出向命令を無効とした。
8. 株式会社 秋田書店
秋田書店は、漫画雑誌『少年チャンピオン』などの発行で知られる出版社である。同社では漫画雑誌等に景品を掲載し、その景品を欲する読者を募り、応募数が景品数より多数の場合は抽選により選ばれた読者へ景品を送るという、いわゆる「読者プレゼント」をしばしば行っていた。ところが、秋田書店では、発表していた当選者数よりも大幅に少ない景品しか用意していなかった。
2007年に大卒後に秋田書店へ入社し、『ミステリーボニータ』編集部に配属され、編集に関わった女性従業員Aさんは、同誌の読者プレゼント欄の担当となった。Aさんは景品が明示されている数より少なくしか用意されていないことに驚き、「不正は、やめるべきでは」と繰り返し上司に訴えた。ところが、秋田書店はプレゼント偽装を是正せず、この女性従業員に対して業務指示を継続した。Aさんはその葛藤の中で精神疾患を患い休職を余儀なくされた。このような状況のAさんに対し、秋田書店は「読者プレゼントを読者に送らずに着服した」としてAさんを懲戒解雇した。
Aさんは消費者庁に対し情報提供を行うと、2013年8月20日、消費者庁は秋田書店に対して「景品表示法違反(有利誤認)」で措置命令を発出した。
懲戒解雇の違法性をめぐっては、Aさんは首都圏青年ユニオンに加入し、東京地裁で同社と争っている。同社は消費者庁から措置命令を受けたにもかかわらず、Aさんへの懲戒解雇は有効であるとの主張を行っている。
9. 学校法人智香寺学園
正智深谷高等学校 & 株式会社 イスト
埼玉県にある正智深谷高校で、高校の非常勤講師が違法な偽装請負で働かされていた。20歳代の女性非常勤講師Aさんは、2010年4月1日から2年間、正智深谷高校と業務委託関係にある人材派遣会社イストと個人委託契約を結び、社会科の授業を担当した。1コマ9000円の契約で、1カ月16コマの授業を行い、月額14万4000円を受け取っていたが、他にも会議への出席や生徒への補講を求められるなどしていた。Aさんは授業の進行やテストの内容などについて、学校の専任教員と打ち合わせをして進めており、指揮命令は学校から受けていた。
このように、学校→イスト→労働者という多重業務委託関係にあり、しかも学校から指揮命令を受けていたため、いわゆる偽装請負でもあった。そしてイストとの関係も業務委託契約なので、社会保険・雇用保険も未加入であった。
厚生労働省東京労働局は、2012年9月14日、業務委託契約を結んでいた講師に直接指示を出して働かせていたのは労働者派遣法の規制を潜脱する「偽装請負」に当たるとして、正智深谷高校と人材派遣会社イストに是正指導を出した。Aさんは正智深谷高校労働組合に加入し、埼玉地裁熊谷支部で雇用関係について争っている。
なお付論すると、常識では考えにくいことだが、現行法においては学校の先生が派遣であることは違法ではない。